お空で 天使が 声あわせて歌うよ
 グローリア グローリア 
 イエズスさま ご誕生

                     ―聖歌 「天使のうた」より―





天使のうた




遠く街中の喧騒がかすかに聴こえてくる。
同じ神をいただく国でもないのに、何故この日にはこの国はこんなに浮かれるのだろう。

毎年のことながら、大道寺操は不思議に思う。

自分の奉じる神は、この日に生まれたという異国の神ではないけれど、年頃の娘を持つ親ともなれば、この日を無視することは難しい。

台所からはシャカシャカと忙しく泡だて器を操る音が聴こえてきていた。
甘い匂いを漂わせたスポンジに、これからたっぷりとした生クリームを塗るのだろう。

街の雰囲気が感染したように浮かれた様子の娘。
神を信じる信じないに関わらず、このお祭好きの娘がこの日を楽しもうとしないわけが無いのだ。


ただひとりの愛娘の立てる、浮かれた音を聴きながら、ふう、とひとつ操は溜息をついた。


この日の本当の意味を祝おうと言う気持ちは持てずとも、去年までならまだこの日を楽しむことはできたのだ。
娘の焼くケーキは形はともかく、味はそこそこ美味しかったし。
浮かれた様子の娘と二人で、街中に特別な惣菜を求めに出かけることも、プレゼントを用意することも楽しかった。


『24日はロキ君のところでクリスマス会をすることになったんだ!』


そう言って、まゆらは嬉しそうに笑った。

あんな得体の知れない少年の下に娘を送ることは、親として断固拒否したいところだったが、いつまでも手元に留めておこうとするものまた、娘にとっては窮屈なものだろう。
断腸の思いで渋々うなずいた父親に、娘は更に嬉しそうに笑い、浮かれてクリスマスの準備をしているのだった。

同じ年頃とは言えないものの、父親とともに過ごすクリスマスよりは、仲の良い友達と過ごすクリスマスの方が楽しいのは当然だろう。
例年よりもケーキ作りにも熱が入っているように思える。
もっとも、それは父親視点の嫉妬に過ぎないのかもしれないけれど。

はあ、ともうひとつ、操は溜息をついた。


「で〜きたっ!」


満足そうな声とともに、皿の上に大きなデコレーションケーキを乗せたまゆらが、台所から出てきた。

「はい、パパ。これ、今日のクリスマスケーキね!」

そう言って、操の前にその大きくて白くて甘いものを置く。

不思議そうに父親は娘を見上げた。

「はい、って、これ持って行かなくていいのか?」
「いいのいいの。だってロキ君のうちには凄腕の料理人さんがいるんだもん」

照れたように笑うと、だから、これはパパと私の分なの。と付け足す。

「帰ってきたら、一緒に食べよう?先に食べてても良いけど」

娘の笑顔に、慌てて操は「いや!待っていよう」と答えた。






お洒落をして浮かれた様子の娘を見送る心中はやはり複雑なものだったが、可愛らしく飾り付けられたそのケーキを見ていると、心の中の穏やかならぬものが薄らいでいくのを感じる。

親馬鹿ながら、良い娘だ、と思う。

ひとり杯を傾けながら、操は素直に娘の上に訪れるクリスマスが、幸せなものであるように願っていた。















    
Merry Christmas to you !












2005年、クリスマス企画として書かせていただきました^^

久しぶりに書きました、魔ロキSSでございます^^;
ロキまゆじゃなくてごめんなさい!クリスマスなのにラブじゃなくてごめんなさい!
今年のクリスマスは、何故かパパな気分なのでした(笑)
色気も無ければ面白味もないSSではありますが(駄目駄目じゃん)、少しでも楽しんでいただけたなら幸いです…。
ちなみにタイトルは、子ども達と歌う賛美歌より。綺麗な曲で、好きです。
パパから見たらまゆらは天使なのです(笑)


皆様、良いクリスマスを!