記憶の中の





子どもの頃の記憶といったらずいぶん遠い記憶だけどサ。

あたしは今と変わらない、気の強い、姐御肌の娘だったんだよね。

おせっかい焼きで、短気で気ままで。

弱いものいじめが何よりも嫌いだった。

弱いものいじめをするような輩のことは心底軽蔑していたけど、

いじめられるような輩のこともうっとうしく思っていたね、正直なところ。

だのに、あの頃は弱いものいじめに遭遇するのが日常だったんだよね、困ったことに。





「やーい、嘘つき勘太郎〜〜!」
「嘘つきは地獄に落ちるって、ばあちゃん言ってたゾ」
「嘘つきは閻魔さまに舌を引っこ抜かれるんだゾ」
「嘘つきはこれでも食らえっ!」
『くらえっ!!』


びしゃびしゃ、ばしゃっ!
泥水がしぶきのように飛んできた。

「こらー!あんたたちーっ!」

こぶしを振り上げて悪ガキどもの輪に突っ込めば、悪ガキどもは憎まれ口を叩きながら、わらわらと散っていく。

「わー!男女のやっこが来たぞー!」
「逃げろーっ!」

男女で悪かったね!

「なにさっ!刃向かう相手となりゃあ、相手が女でも逃げ出す腰抜けのくせにっ!」

全く腹立たしいったらありゃしない。
怒気を含んだままの眼でキッと振り返ると、泥まみれのちびは、びくりと肩を震わせた。
・・助けてやったっていうのにサ。こいつのこういう態度も気に入らないんだよね。

「・・・あ、ありがとう・・・ヤッコちゃ・・・」
「あんたもあんただよ!どうしてあんな奴らに黙っていじめられてるワケさっ!?」

おどおどと口を開く勘太郎にピシャリと言い放ってやると、案の定、奴はべそをかき始めた。


「だ・・・だってだって・・・いっしょおけんめい『うそじゃない』って言っても、信じてくれないんだも・・・・・」

あああ、うっとうしい!!

・・ひよわで臆病で、軟弱者の勘太郎。
泥だらけで、小汚くて、みじめったらしくて。

でも、意外と頑固なところがあるんだよね。

勘太郎の言う所の『本当』。彼には、『妖怪』の友達がいるらしい。
本人はそう言い張っているけれど、誰にもそんなもの、見えやしない。
だから『嘘つき』だって言われて、馬鹿ガキどもの標的にされてるわけさ。

もちろん、アタシにだって、見えやしないんだけどさ。
だから、それが『本当』か『嘘』かの判断はできないんだけれど。
どんなに勘太郎自身をうっとうしく思っていても、それだけは否定しないようにしている。

小さな体で必死に守っている、奴の最後の砦だからね。
それを否定してしまったら、勘太郎は決してアタシに心を開かなくなるだろう。

「もう泣くのはお止しったら!情けないなァ。いいから、とっととあたしン家においで!そのナリじゃ、おばさん心配するだろうし・・・」
「う・・・うん・・・」

そのまま強引に、小さな手を引いて歩き出す。
勘太郎は早くに両親を亡くして、親戚の世話になっている。
おばさん達は良くしてやってるんだろうけどさ。
子ども心に、やっぱり気を遣うんだろうね。
自分がいじめられっこだってことは、必死に悟られまいとしている。
これも、おせっかい焼きのアタシが奴を放っておけないと思う理由のひとつなんだよね。

「ヤッコちゃん、ありがとう・・・」

ボクのコト、信じてくれて。



小さな呟きは、聞こえなかったことにして歩き出す。
・・振り返って、赤い顔を見られてしまうなんて、まっぴらだから・・・・。








                     ・・・・ン

                 エーン、エーン・・・




子どもの泣き声が聞こえて、はっと我に返った。

夏の暑さにやられたのかね。つらつらと昔のことを思い出したりして。
それとも昨日、久しぶりにあいつに会った所為なのか。

久しぶりに会ったあいつは、背の高くて見目の良い男を連れていてさ。
やけに信頼している風だったよね。



   「やーい、泣き虫毛虫、つまんで捨−てろっ!」
   「お前の母ちゃん、でーべそっ!」


「こーら、あんたたちっ!」



視線はずいぶん高くなったけど、いくつになってもアタシも変わらないもんだね。

「このヤッコさんの縄張りで、弱いものいじめなんかするんじゃないよ、馬鹿ガキがっ」


あいつもこんなんだったかな。
昔の可愛げはどこへやら。
すっかり生意気になって、腹黒くなって、とうとう安心できる場所を見つけて。




「ね・・・姐さん、ありがとう・・・」
「あんたもね、黙っていじめられてるんじゃないよ、男だろ!?」




それでも信じていたいのは。


アタシのおせっかいも、少しはあいつを支えていたってこと・・・・。










あとがき…?

氷山様にお捧げした小説です。ドリーム大爆発です(笑)やこ勘です。
はじめはカップリングとしての意識はなかったのですが、やっこちゃん視点で勘ちゃんの幼少時代を書いてみよう!と思い立ち、これを書いたのでした。
そして自分ではまってしまいました、やこ勘(笑)
タクティ小説としてはこれが初めて書いたものです。
色々と不審な点やら設定やらは見逃してやってください;;