星のテラス
「あっ、流れた」
夜空にちりばめられた星々の間にあえかな銀線がすっと描かれた。
続いてもう一つ。
僕に対する対抗心から、星を眺めることは好んで行わなかったフィリエルだけれど、流星雨を見るとき、どんなに彼女の瞳が輝いているか、僕は知っている。
「今のを見たかい?これから-----」
「ルーン、ちょっとこっち向いて」
言いかけた僕の言葉を制してフィリエルが僕の顔を両手で挟む。
意外に思う暇もなかった。
彼女の方に向き直ると、びっくりするほど近くに琥珀色の瞳があった。
柔らかなくちびるが、僕のそれに押し付けられて、つと離れる。
???
くちづけされた-----ということは、わかった。
彼女の方から?
まじまじと見つめると、彼女ははにかみとは無縁に、自信に満ち溢れた表情をしていた。
相手がフィリエルなだけに、手放しでは喜べない何かを感じる。
「フィリエル、どういうつもり?」
思わず怪しむような口調になる僕に、彼女は胸を張って宣言した。
子どものように、無邪気に。
「あたしはね、知ってるの。キスは相手を喜ばせるためにするものよ」
琥珀色の瞳は、寸分の迷いもなく、何かが吹っ切れたように清々しい……が。
「あなたがそのことを忘れないなら、ときどきあたしもしてあげる。そういうキスだったら、相手に謝らなくてもいいはずでしょう?」
その言葉を聞いて、自分でもほっとしたのかがっかりしたのかわからなかった。
-----やっぱりフィリエルだ……。
彼女がどういう段階を踏んで、どういう思考をめぐらせてその結論に達したのかはわからないけれど、今の彼女にはそれ以外の真実はないのだろう。
結局、彼女の中での僕の位置が変わったわけではないのだ。
けれど……
「きみってやっぱり、あんまりよくわかってないような気がする。でもそれはそれでいいや。そのほうがフィリエルらしいから」
思わず口から出た台詞は、どこか投げやりな調子を含んで空気に流れた。
それは、まごうことなき僕の本音であったけれど、少なからず彼女を馬鹿にするような調子を含んでいたのかもしれない。
「失礼ないいぐさね。もっとはっきり認めなさいよ」
むっとして頬を染めたフィリエルが、勢い込んで僕に詰め寄った。
「あたしの言うことのどこがまちがっているのよ。もう一回してみる?」
いつもの口論に流れ込みそうだった空気を、彼女の最後の一言が、変える。
だってきみ、僕のことを男として見ていないじゃないか、という言葉をしまいこんで、僕は即座にうなずいた。
「してみる」
勢いをそがれたフィリエルが、戸惑ったように僕を見つめ、次いで微笑む。
ほらやっぱりね-----と言うように。
------ちがうよ。
心の中で、そっと呟く。
僕が求めるキスと、君が与えるキスとでは、たぶん意味が全然違うんだ。
それでも。
今、この幸せの訪れを、僕にあずけてくれるなら……
僕は、そっと目を閉じた。
あとがき…?
「ほわほわなおうち」様に、「てって」として送り付けさせていただいた代物です。
「星のテラス」の場面を、ルーン視点にしてみました。
思えば、西魔女のラブシーン(笑)をルーン視点で書き直してみることが、私が二次創作を始めたきっかけでした。
これはその2作目に当たります。(1作目はちょっと公開を躊躇うものが;)
原作そのままなので、二次創作とは言えないかもしれませんが……;