旅人の、話

 

 

「・・・そうして旅人は、そのままぽっくりと死んでしまいましたとさ」




「かわいそう・・・っ。その旅人さんはかわいそうです・・・」

話を聴き終えた子どもは目にいっぱい涙をためていた。
母は、おやおやと苦笑する。
そうして、愛する娘に向かって問いかける。


「透は、どうして旅人がかわいそうだって思うの?」
「だって・・・、皆さんに騙されたまま死んでしまうなんて、あんまりです・・・!」

「じゃあ、どうして旅人は騙されたって思うの?」
「? だって、今お母さんがそういいました・・・」


娘は不思議そうに首をかしげる。
母は、そうだね・・・と、笑った。

「確かに、病気の娘がいるというのは嘘かもしれない。畑にまく種代が必要なんて、嘘かもしれない。でも、もしかしたら、どうしてもどうしても欲しいもののために、お金が必要だったのかもしれない。」

きょとんとしたまま、じっと母の話に聞き入る娘を見やって、母は愛しそうに娘の髪を掬い上げた。

「言った言葉は嘘でも、その人たちは旅人のもたらしたもので、本当に救われたかもしれないよな。」
「・・・では、嘘をついてもいいのですか?」

そういうことではないけどね、と母は笑う。

「本当か、嘘かなんて結局は誰にもわからないんじゃないかな。だったら、疑いながら生きていくなんて、つまらない。旅人のようにすべてを捧げる必要はないけれど」




そこで、母親は一端言葉を切る。

大切な一言を伝えるために。



それは、くりかえし、くりかえし、伝えられた言葉。





「透は、信じてあげられる子になりな」














娘の遠い記憶に眠る話。


旅人の、話。


 

 

 


あとがき…?

短いです、ショート・ショートなんてものではないかも;
またまた使いまわしでごめんなさい;
某サイト様に投稿したとき割と反応をいただけたもので…
紅葉くんの話していた旅人の話、透くんも知っていたらどうだろう、というか、なんとなくこの親子の間でこんな会話があったような気がして。

す、すみませんでした;