思索
訳ありだということは、わかっていた。
見たこともないような、高価な絹の衣。
細い指先は荒れた様子もなく、爪の先まで綺麗に磨き清められている。
日に当たったこともないような、白く、小さな顔。
みずらに結った髪に重ねた絹の狩衣は、自分たちから見ても、よほど良い家柄の男児だということが推測できる。
その、貴族の子どもがこのご時世にあのような場所で迷子になっていたということからして何かしらのわけを感じるというのに。
しかも、それは自分たちを追い立てるための遠征から漏れてしまったらしい迷子だと言うのに。
『このままでいい。こうしていれば乾きます』
(その上、女の子だなんてな・・・)
野宿はけもののすることだ、と言いながら、疲れに抗え切れず、すやすやと安らかに眠っている傍らの少女を見つめながら、藤太は溜息をついた。
訳あり、と言ったら、自分の甥にかなうものはいないと思う。
都に仇なす、途方もない力を持ちながら、都へといざなわれた甥。
生まれた時からいつもともに在りながら、決して自分と同じ種類の人間ではない、と言うことを何度も思い知らされていた。
あやかしのようであり、神のようであり、かけがえのない、自分の半身。
(この上、面倒を抱え込んでいいのか・・・?)
正直に言うと、自分たちの抱える問題で精一杯と言う感はある。
この上、素性を隠した貴族の子どもに構っている場合ではないと思う。
(頭では、わかっているんだがな・・・)
パチパチ、と焚き火のはぜる音だけが、静かな闇の中に響き渡っている。
安らかに眠る、訳ありの少女と、かけがえのない半身を見つめながら、それでも結局、藤太は、笑みを漏らしてしまった。
どの道、このままこの少女を置いていくわけにはいかない。
なるようにしかならない。
そして、それより何より。
無愛想で朴念仁で、こと女性に対しては愛想のあの字もない甥が、初めて見せる、女の子に対する不器用な優しさが、藤太には嬉しかった。
『女の子』だと言うことに気付いていないことを差し引いても、それは十分に価値のあることで。
だからと言って、彼らを危険に晒すわけにはいけないけれど。
(悲壮さだけが必要なわけではないだろう?)
なんとなく、言い訳のように自分に言い聞かせながら、藤太は焚き火の周りに溝を掘って火勢を押さえ自分も眠る準備をした。
明日も、早い。
あとがき…?
藤太視点で、鈴鹿丸に出会って2、3日後の夜のお話、と言うことでよろしくお願いします(何が)
これも結構前に書いたものでして、投稿したものを使いまわさせていただきました。
とは言っても、投稿作品自体はサイト様のパンク(かな?)で消えてしまったのですが……
いつも思うのですが、終わり方があいまいですよね、私の小説…
それから薄紅小説は、二字熟語(というのか)タイトルが多いと思った(笑)
タイトル付けるの、苦手なんですよ;;
なんだか淡々とした話になりましたが、読んでくださった方、有難うございましたvv