娘は、小人の名前を当てて、無事に家に帰ることができました。
ルンペルシュツルツキン
「何で、『ルンペルシュツルツキン』なのかしら?」
不意にフィリエルが言った。
「? 何が?」
ルーンが怪訝そうにフィリエルを振り返る。
フィエリエルとルーンは、ヘルメス党の隠れ家で、夕食の下ごしらえをしているところだった。
本来なら研究者の仕事ではないはずだが、最近は人手不足で、彼らはほぼ自給自足で生活していた。
フィリエルは別に構いはしなかったが。
「あなたの名前よ。『ルンペルシュツルツキン』って、娘を助けてくれるけど、下心を持って娘に近づくわけよね?」
ジャガイモの皮を剥きながら、フィリエルは首をかしげる。
「・・・いつも、唐突だね、君は。」
汲んできた水を鍋に慎重に注いでいたルーンは、少々あきれたようにフィリエルを見た。
『ルンペルシュツルツキン』
それが、ルーンの正式な名前だ。
「そう?でも、不思議じゃない?博士は何でこの名前をあなたにつけたのかしら」
フィリエルは構わず、続ける。
粉屋の主人が、王様に見栄を張ってしまったため、金の糸をつむがなければならなくなってしまった娘。
金の糸をつむがなければ、殺されてしまう。
そこで現われた小人が、娘の代わりに金の糸をつむいであげる。
娘が小人の花嫁になるという条件で。
「但し、おれの名前を言い当てることができたら、お前を解放してやろう」
名前を言い当てられたために無力になった小人。
博士はそう言っていた。
ルーンの過去との決別のため?
きっとそうなんだろうと思った。
博士がその名前を持ち出したことが嬉しかった。
とても良い名前だと思った。
「でも、考えてみれば、ルンペルシュツルツキン自体はあまりいい小人ではないような・・・」
声に出してしまって、慌ててルーンを振り返る。
ルーンには言いたいことを何でも言ってきたフィリエルだったが、流石に無神経かもしれない、と思ったのだ。
ルーンは特に気にした様子も無く、鍋を火にかけている。
「・・・君が昔好んでいた青い本、さ、男性に名前がついている話ってあまりなかったんじゃないかな」
「! そういえば、そうね」
娘に名前がついている話は多かったが、男性はたいてい『王子様』とか、『宿屋』とか『末の弟』とかの代名詞で語られていたような気がする。
「だから、『ルンペルシュツルツキン』?」
確かに、印象的な名前だ。
忘れられない。
「でも、僕だったら名前に拘束力を持たせようなんて思わないけどね」
淡々と、ルーンは言う。
「そりゃあ、そうでしょうけど。でもそれって、あなたは他に何かで拘束力を持たせることができるというような言い方ね?」
皮を剥いたジャガイモをルーンに渡しながら、何気なくフィリエルが問う。
ジャガイモと一緒にフィリエルの腕を引っ張り、ルーンは前触れも無く、フィリエルの唇に口付けた。
得たり、というように、笑う。
「・・・!!」
フィリエルは真っ赤になって身を引いた。
「『キスをして交わした約束には力がある』って言っていたのは君だったと思うけど。相変らず、迂闊だね」
愉快そうに笑うルーンを、フィリエルは恨めしげに睨んだ。
「・・・今のキスに、何の拘束力があったというのよ?」
「ずっと、僕と一緒にいるということ」
あっさりとルーンは言う。
フィリエルはますます真っ赤になった。
「なんか、ずるい」
「そう?」
「ルーンばっかり、余裕みたい・・」
「だったら、君もする?」
本当に強気だ。
なんとなく、悔しくなって、フィリエルはルーンをつかんで引っ張った。
「・・・するわよ!」
「・・・・やれやれ・・・」
夕食準備の手伝いに来たケインは、ため息をついて、回れ右をする。
今夜の夕食にありつけるのは、まだまだ先になりそうだった。
あとがき…?
えーとえーと、わかってないわけではないんです;
ルーンの名前の由来は、「その名前を知っていたから連れ去られずにすんだ」小人の名前で、どちらかと言うとおまじないのような名前なのかもしれないのですが、小説内で、違う解釈をしちゃってますね;;
…新解釈、ということで駄目ですか?(駄目だろう)
すみません、ぶっちゃけ、甘甘な二人が描きたかっただけとかいうことなので、(結局そこか!)細かいところは見逃してくださると;;><
そういうこじつけ要素を省くと、これは初めて「創作」できたかな、と思える西魔女なので、結構気に入ったりしています(笑)