Mother's Day

 



道場の帰り道で、あいつを見かけた。






「はい、1,050円になります」
「は、はい!」

慌てて財布から取り出した小銭が、音を立てて転がる。

「すっ、すみません〜っ」

小銭を追いかけて身をかがめ、今度は近くにあった鉢に頭をぶつける。

「ひゃあぁ・・・」
「お、お客様、大丈夫ですか・・・?」

花屋の店員は、呆れているようだった。




「お前、何やってんだよ」
「きょ、夾君!!」


足元に転がってきた十円玉を拾ってやると、透は心底驚いた顔をした。
小銭を受け取りながらニコニコと笑う。

「有難うございます、夾君。道場の帰りですか??」
「ああ」
「お疲れ様です」
「いいからとっとと払っちまえよ」
「そ、そうでした!」

透は慌てて店員のところに戻る。
そして、白い花束を抱えて戻ってきた。
恐ろしいほどよく似合う。

「何だ?それ」
「カモミールです!今日は母の日ですから!」

・・・こいつ特有のボケか・・・?

「・・・母の日って言ったらカーネーションじゃないのか?」
「お母さん、ハーブが好きだったんです。それに、母の日にカーネーションを送られるのはあまり好きではなかったようで・・・」
「・・・変わってるな、お前の母親も」

そういうと、透は少し照れたように笑った。

「母の日はカーネーションが高くなるので・・・。私のことを気遣ってくれていたのだと思います」

そういうもんか?

「これから、墓参りに行くのか?」
「はい!でも、夕食の支度には間に合うように帰ってきますので・・・」
「そんなの気にしないで行ってこいよ」
「有難うございます!」
「気をつけてな」






白い花束を大事そうに抱えて、あいつは角を曲がっていく。

「・・・母の日か・・・」


俺には無縁だよな。
母の日も、墓参りも。




俺があの人を苦しめてしまったという事実。


それを認めたくないがために、
それを直視したくないがために、

今までずっと、目をそむけてきたけれど。


でも、そうだな。
俺は別に、あの人のことが嫌いではなかった。
言いたいことや、文句を言いたいことはたくさんあるけれど、
別に憎んではいなかった。


なんでだろう。
今、こんな風にあの人のことを思い返せるのは。



・・・やっぱり、あいつの影響だろうか。






俺がすべてのわだかまりを捨てて、あの人の墓前に立つことはないかもしれない。

でも、今

空に向かって思いを馳せよう。









・・・あの人がどうか今、俺のことを忘れて、安らいでいますように・・・
















あとがき…?

ちょうど1年前の母の日にこれを書いたのでした。
ああ、あれから1年かあ、なんて、思いを馳せてみたり(笑)
由希・透派の観凪ですが(そしてそれは限りなく無理無理ですが)、こんな夾・透も好きです。
透くんの存在を通して、草摩の人たちは皆、世界の見方を変えていっていますものね。
対・透くんだけでなく、彼女を通したからこそ変わった世界、というものの描き方も、フルーツバスケットの温かいところだよなあ、と思います。