「どうしてわたし、泣いてるんだろう……」



泣きながら目覚めた午睡の夢は、目覚めとともに儚く消えた。








     
夢の疵痕






「はあ、いっぱい買っちゃった〜」

父子家庭の一人娘ともなれば、自然と経済観念も敏感となるものだ。
今日は特売のチラシが入っていたため、川向こうのスーパーまで足を伸ばしてきたのだった。

暮れかけた空に、遅くなっちゃったかな、と時計を見れば、針が示す時間は6時過ぎ。


(なんだ、まだそんな時間か)


思った後で、ふと首をかしげる。

6時といったら、十分『遅くなってしまった』部類だろう。
普段の寄り道といったら、せいぜい友人と喫茶店に寄るか、近所のスーパーで買い物をする程度もの。


(……また、だ)


最近、自分の生活の中に、空白を感じることが多い。

いつもと変わらず、日常を過ごしてきたというのに、この違和感は何だろう。




あの、泣きながら目覚めた午睡の夢が、ずっとついてまわっているようだ。

あの日から、ずっと感じる空虚感。
何か、夢の中に大切なものを置き忘れてきたような焦燥感。

それが何だったかを思い出そうとするたび、どうしようもなく切ない感覚に身を苛まれる。


(……どうして……?)


問いに答える夢は、まだ遠い、彼方。






忘れさせて欲しいだなんて、望んでいない。

それは、私の望みではないでしょう?
忘却に、救いなんて、求めていない。

私は、どんなに辛い現実だって、受け止めるよ。

だって、貴方が大切だから。






不意に、涙が溢れそうになる。

どうかしている、と思う。
内容すらも覚えていない夢に、まるで縛られているかのように振り回される自分。

それでも、心が警鐘を鳴らすのだ。



コノママジャ、ダメ。
コンナノハ、チガウ。



例えば、今のように自分の時間の感覚が不自然に感じられるとき。
例えば、アイスクリームやさんの前を通りかかったとき。
例えば、テレビで報道される事件を見たとき。


何気ない日常の中で、どうしようもなく焦燥感に駆られることがある。
狂おしいほどの、欠落感を感じることがある。





もう、名前すら思い出せない『貴方』
顔すらも思い出せない『貴方』

大切な、大切な、貴方。

貴方は、私の中からすっかりその存在を、消してしまったのね。
ぽっかりと、私の中に穴を開けて。

それで、『貴方』を消してしまったつもりになっているのでしょう?

でもね、私は覚えてる。


貴方に触れた、私の手が、
貴方と通った道が、
日常の中の小さな仕草が。

全てが貴方を連想させるから。



私自身を消し去ってしまわない限り、私の中から貴方のことを消し去ってしまうことなんて、出来ないんだよ。

ううん。
たとえ、私自身を消し去ってしまったとしても。








(私、また何かを失おうとしているの……?)


こんな焦燥感には、覚えがあるから。

大切な、大切な存在を失ってしまうときの感覚。



恐怖、欠如、焦り



退屈なほどに平凡な日常を過ごしている今の自分には、少々似つかわしくない感覚。








だからね、私は思い出すよ。

たどり着くよ、『貴方』に。

たとえ、それがどんなに辛い現実だったとしても。

『貴方』のことを、夢に封じ込めての平安な現実なんて、私は求めていないもの。









        「ようこそ!………へ」
        

        






あれは……誰の言葉だっただろう…

 

 

 

 

 

 

 


あとがき…??

い、いつもに増しての意味不明文であります、ごめんなさい><

何か、ブレイドを読んでいてですね、とっさに頭の中に浮かんだ文章の断片をつないでみた、と言いますか;
こういう風に思い付きがくるのって、久しぶりの感覚だったもので、つい勢いに任せて書いてみてしまいました…が、結局今回も「だから何なんだ〜!」な出来でありました(涙)

ブレイド7月号を読んでの、観凪の多分に先走りを含んでいると思われるまゆらサイドの話。
と言うことで、7月号のネタバレかもしれないし、先走りすぎて全然ネタバレではないかもしれない、微妙なラインであります。