「ねえロキ君、鳴神くんて知ってる?」

―――その瞬間、胸を鋭い痛みが貫いた―――








   現の瑕痕






シーズンオフの海岸は、広く、訪れる人影はどこにもない。
目の前で無邪気に砂山を作る少女と、自分を除いては。

いつもなら面倒がる散歩の誘いも、今日は断る気にはならなかった。

多分、こんな風に彼女と過ごせる時は、あとわずかしか残っていないから。







わかっていたことなんだ、最初から。
君とボクは、違う時間を生きるモノ。
決して相容れることのない存在。


だから、必要以上に人間に関わるのは、嫌だったんだ――









寄せては返す波の音。
その音を聴きながら、少年の姿をした神は、ほんのわずかな時間の波に思いを馳せる。



「―――…… まゆらはそんな風に、ボクの事も忘れていくんだ」



悪戯けが過ぎて、地上に堕とされてしまった。
今思えば、確かに「悪ふざけ」で括るには、重大なことをしてしまったのかもしれない。

それでも自分は、いつか神界に戻る身だから。

探偵と依頼人。

依頼が済んだら、それで清算されるような。


そんな距離が丁度いい。


そう、思っていた。








「探偵事務所、私が手伝ってあげる!」


何を言い出すのさ、君は。


いいよ、いらないよ。そんなのは迷惑なだけだ。


適当に面白おかしく。適当に距離を置いて。
そうやって、此処での時間を過ごしていくつもりだったのに……。


だって、ボクは此処で生きるイキモノではないから。








いつか、必ず別れは訪れる。
そう、遠くない未来に、必ず。



「ロキ君は、まるで私の――――」



だったら、深く関わらない方がいい。



「まゆら、帰ろう」



君にとっても、ボクにとっても、そんなことはわかりきっていたこと。















わかりきっていたこと……なのに……。


君のおかげで、台無しだ。

君が遠慮もなく、ボクの領域に踏み込んでくるものだから。

それが、ボクにとっては嫌ではなかったものだから……




いつの間にか、安全な距離は無くなってしまった。

いつの間にか、こんなにも……








……別れが辛い。







「貴様さえいなければッ!」

多分、その時が訪れたのだろう。

余裕ぶってはみたものの、全てを手にした彼とボクとでは、力の差は歴然としていて。


死ぬつもりじゃないけれど。

勝ったとしても負けたとしても。

苦いことには変わりは無い。


この闘いが終わった後、君にまみえることは、もう無いだろう……多分。








違う時間を生きる、君とボク。

ボクの方が先にこの世を去ることは、決してないと思っていたけれど……。








さよならだね、まゆら。








どうか、ボクのことは忘れて、心安らかに。




どうか、君に多くの幸せがあらんことを……














祈る。
願う。


どうか、どうか…

















あとがき…?

ロキ様サイドに立てた、貴重なこの回!
ロキ様サイドでお話し作るならココしかないだろう!という勢いで作ってみました(笑)

今までの、冷たいほどに無関心なロキ様も、必ず訪れる別れを意識して、敢えてまゆらに関わらないようにしていたんだ、と解釈すると、不満が薄まっていったものですから…(ぉぃ)

まだまだロキ様の心情理解には及んでいませんが、こんな心の動きもアリかな〜、と思って作ってみました。
未熟でごめんなさい;