旅立ち



どうして、あの時…


思い出してはルージャンは悔しい思いに唇を噛む。


どうしてあの時、叫んでしまったのだろう。
取り乱して、皆に知らせてしまったりしたのだろう。
あの時、自分が口を閉じてさえいれば。
息を殺してさえいれば。

自分自身が情けなくて、不甲斐なくて。
悔しくて悔しくて仕方がない。

焼かれたペチカの小屋で見つけたボロボロの鍋。
「粗末」ということすら躊躇われるような、惨めで、廃品そのもののような。

たった13歳の女の子が、たった一人で生きていくことの過酷さを、正面から叩きつけられたような気分だった。
実際、過酷だったのだ。
パーカットさんが処分したカラカラに乾いたパンをかじって、飢えをしのいで。
たった一つの火種で跡形もなくなってしまうような粗末な小屋で寒さをしのいで。

そんなちっぽけな少女からキャラメルパンを奪ったばかりか。
朝食を食べられる貴重な機会を奪ったばかりか、自分は……!


(どうしてあの時…!)


結局思考はそこで行き詰る。

あの時。
彼女が妖精と話しているのを見てしまった、あの時…。

いくら恐慌状態にあったとはいえ、決して自分はそれを口外するべきではなかったのだ。

いくら守頭だって、廃棄処分したパンを盗ったというだけの咎では、ペチカの住む小屋を焼いたりはしなかっただろう。
地下に閉じ込めようだなんて、しなかっただろう。

血眼になって、命を奪おうとまでは、しなかっただろう……


自分の犯してしまった、あまりにも大きなあやまち。
過去に積み重ねてきた、ペチカへの非情な仕打ちの数々。


(ペチカに合わせる顔なんて、無い…)


それでもルージャンは、麻袋にわずかな食料と硬貨を詰め込んだ。

ペチカに会ってどうするかなんて、ルージャン自身にもわからない。

それでも、それには今までの生活を全て棄てても挑むだけの価値はあったから。















ただひとつの思いを胸に、少年は雪山を進む。


あまりにも小さな、たった一人の少女の存在を求めて、少年の知るちっぽけな村の外に広がる、あまりにも広大な世界へ。






たった一人の、少女を求めて……



 

 

 


あとがき…?

これは、童話同盟様にお捧げしたものです。
ルージャン、大大大好きですvv でも全くルージャンの魅力が表せていないところなど、無念極まりなく(溜息) 
童話物語、とても好きです。
その後のお話とか、いつかアップしたいですね〜