一時の別れと出会いの予感
・・・予感が、するの・・・
かさばる荷は、全て馬車で先に送ってある。
身の回りの細々したものを手提げのカバンに詰め終わると、アデイルは小さくため息をついた。
隔絶された女学校ですごした時間は決して易しいものではなく、本物の駆け引きの応酬の日々だったが、それでもそれは社交界に出る準備段階に過ぎなかった。
(これから、本当の戦いが始まるのだわ・・・)
女学校から王宮の高等学院に編入するにあたり、彼女は本格的に女王候補として名乗りを上げることになっていた。
「どうしたの、エヴァ、考え事?」
顔を上げると、無二の親友、ヴィンセントがいたずらっぽく微笑んでいる。
アデイルも同じように微笑みを返した。
「もう、その名でわたくしのことを呼んでくださる方がいないところに行くのだと思うと淋しくて」
「それはわたくしも同じ。けれど、このトーラスではエヴァンジェリンの名は不滅のものとなるでしょう」
二人は、秘密を共有する子どものように楽しそうに、ひそやかに笑みを交わす。
この学園に通う女性のほとんどは、将来のグラールを背負う立場にある者たち。
一時過ごす場所を変えたところで、それは決して別れではないのだ。
わかってはいることだが、それでも刹那の別れを惜しく思ってしまう。
(わたくしには、気持ちを分かち合える方がほとんどいないから・・・)
血の繋がった父、母とは幼い頃から顔を合わせることもなく、世間で言われる肉親の情というものもいまいちわからない。
代わりに自分を守り育ててくれた、養父母、義兄に愛情は感じるものの、自分の抱く気持ちと相手の抱く期待の間にはいつも落差を感じずにはいられなかった。
(これだけ大切にされている自分のことを孤独だなんて、言ったらいけないのかもしれないけれど・・・)
そろそろ迎えの馬車が到着する時間だ。
名残を振り切るように、アデイルは手荷物を持ち上げた。
「次に会うときは、王宮になるのでしょうね」
「ええ。立派におつとめを果たしている貴女を期待しているわ」
「貴女こそ、おつとめを果たしてくれなくては。私がいなくなったからといって、レアンドラの勝手にさせてはだめよ」
「まあ。手厳しいのね!」
ひとしきり笑いあった後、娘たちはひとたびの別れを告げた。
・・・わたくしは、大丈夫。
本当は、不安で胸がいっぱいだけれど。
予感がするの。
今度の帰郷がきっかけになるって。
グラールの運命をも変えてしまう出会いがあるって。
その出会いがわたくしを変える。
空想するだけの無力なわたくしから、違う自分になるような。
・・・そんな予感がしているの。
あとがき…?
またまた使いまわしでごめんなさい;
アデイル&ヴィンセントのコンビ、最強だと思いません?(笑) 観凪は大好きですv
でも、本当はユーアデを書こうと思っていたのですよね…;
荻原作品は、西魔女に限らず、脇役キャラまで皆愛せて大好きですv