そんな、絆
白いカーテン、ピンと張られた白いシーツ。
病院特有の薬臭さが鼻先をくすぐった。
「あ!燈路ちゃん!今日も来てくれたの!」
嬉しそうに微笑む母親に向かって、どこかそっけなく少年は歩み寄った。
「母さん一人じゃ心配なんだよね。×××に怪我させなかった?」
「だーいじょうぶよぅ!」
ぷく、と年若い母親は頬を膨らませる。
退院は明後日に迫っている。
待ち遠しいような、不安なような、妙な気分だ。
「ほーら、×××ちゃん、燈路お兄ちゃんが来てくれまちたよー」
腕に大切そうに抱いた赤ん坊に向かって、母親は嬉しそうに語りかける。
「燈路ちゃんも、抱っこしてみる?」
「いいよ、ボクは」
一歩下がる少年に母親は笑顔でたたみかけた。
「ちっちゃくって可愛いわよぅ!抱っこすると愛しさが違うんだから」
「できないってば、ボクは!」
「あら、どうして?」
「変身しちゃったら落としちゃうでしょ!?」
あ、そうか。と口元を押さえる母親に、少年はため息をついた。
頼むから気づいてよ、と。
やっぱり退院は不安だ。
この調子でどんな安全な子育てが望めると言うのだ。
「×××ちゃんのお兄ちゃん、しっかりしてましゅねー」
そりゃあしっかりもするよ、と心の中で毒づく。
同じ母の元で育つわけだから、この妹もそう可愛らしく成長するとは思えない。
変な感じだ。
こんなに小さくて、目も開いていなくて。
産毛、としか言いようの無いモノが薄く頭を覆っていて。
顔も、手も、同じ人間とは思えない。
まじまじと見つめていると、ふと赤ん坊はむずがる様子を見せた。
「!」
反射的に手を伸ばすと、指先がその小さな掌にきゅ、と握られる。
「まあ、×××ちゃん、お兄ちゃんがわかるのね〜」
母親は嬉しそうに微笑んだ。
・・・赤ん坊の把握反射。
でもそれが何だというのだろう。
たとえそれが生理的なものだとしても、握られた指先から暖かなものが胸に広がっていくのは止められない。
『燈路ちゃん、優しいお兄ちゃんになりそう』
杞沙の言葉が脳裏に蘇った。
「・・・全く」
頬が緩んでいるのが自分でもわかる。
「・・・やめてほしいよね」
え、なにが?と笑顔で問う母親を、どこか遠くに感じながら少年は思う。
ボクがお前の分までしっかりしておいてやるから。
頼むからボクみたいにひねくれたヤツにはならないでくれよ。
さらり、とカーテンを揺らす柔らかい風が、新しい家族の絆を祝福するように三人の間を通り抜けて行った。
あとがき…?
ま、またまた使いまわしで以下同文(汗) しかもまたジャンル外ですが。
ではあるのですが、これは個人的には気に入っているお話だったので、載せてしまいました;
燈路兄ちゃんのところの赤ちゃん、勝手に女の子にしています。その方が面白そうな気がして。
名前が×××ちゃん、となっているのが某「キ○の旅」の影響だということは内緒ですよ。
ああ、やっぱりフルバ好きだ…!