昔語り

 

 

それは、長い長い年月を生きる彼女の、物心がつくかつかないかの頃のお話。

昔の、昔のお話。

 

 

その頃、彼女はまだ普通の狐だった。
妖力もなく、名前もない、ただの狐。
親もあり、兄弟もある、普通の狐。


狐たちは、人里から少しばかり離れた山の中に暮らしていた。

 

その山を、追われた。

 

山から少しばかり離れた人里。
そこに、鬼が現れた。

あとから聞いた話によると、それは謀略にかけられて恨みを呑んで死んでいった貴人だったらしい。

村人たちが、金品を目当てに旅人を陥れて殺したと。

その旅人が、実は謀略によって地位を奪われた、朝廷の人間だったと。


その怒りは凄まじく、鬼は村を滅ぼすだけでは飽き足らず、次なる贄を求めて山に分け入った。


鬼の目的は狐ではない。
彼の者の目的は、それを陥れたと同じ種である人間。

それでも、その行程に選ばれた山で、狐たちはその妖気に大きな影響を受けた。

 

或ものは命を落とし、或ものは命を削り、また、或ものは妖力を帯びた。

 

彼女もその中の一匹だった。

 

その日まで共に暮らしていた親兄弟が命を落としていく恐怖。

自分だけが妖力を取り込み、永らえてしまった苦しみ。

 

彼女の記憶の底に沈められている、哀しいできごと。

 

 

その記憶の底の中で、彼女は「彼」にまみえた。

 

 

彼女を恐怖に突き落とした元凶。

怨鬼。

彼の者の狙いが自分でないことなど、わかる訳もない。

激しい怒りのまま突き進む鬼は、ただ恐怖でしかなく、彼女は其の者から逃れようと必死で走っていた。

その彼女の目の前で。


ただひと睨みの眼光で怒り狂う鬼を止め、その魂を飲み込んでしまった者。

この世のものとは思えないほど恐ろしく、また、この世のものとは思えないほど美しい。

怯える狐のことなど気にも留めず、ただ極上の『食事』に冷徹な微笑を浮かべ、悠然と去っていった者。

 

 

彼女の記憶の底に沈み、浮き上がることの無い想い出。

果たして「彼」は、仏であったか鬼であったか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遠い遠い未来の先で、彼女は彼の者との再会を果たす。

 

 

 

 

 

 


あとがき…?

な、何が言いたかったのかな、結局私は、みたいな;(おい)
ちょっと自分的に、今までと作風が違う気がします。貴人殺し、とかどこかで聞きかじったような話を連ねた全くのでたらめですが、要するに「記憶に残らない出会いのエピソード」みたいなものにも弱いみたいなんですね、私。
これを「春ヨー」と呼ぶのは詐欺だろ、とは思うのですが;
ご、ごめんなさい……(平謝)