あかがね色の髪の乙女

 

 

『きみのそばににいたかったよ』







君と交わした最後の会話。

思い出すだけで、胸が張り裂けそうになる。

ずっと一緒にいたかったよ。それがかなわない夢となるまでは。



君と交わした最後のくちづけは、薬を含んだ苦いもので。

それでも、思い出すと胸が苦しくなる。

もう、二度と、会えない。

それを選んだのは、僕自身。







「ルーン、どうかしましたか?」


ケインが怪訝そうに僕の顔を覗き込む。
僕が考え事に没頭してしまうことは、そう珍しいことではないのに。
それほどおかしな顔をしていただろうか。


「いや、なんでもないよ」







責めてもらったほうが、まだマシだった。


『あたし、何かまちがえた?』


不安げに、僕を見つめる、君の瞳が脳裏から離れない。

世界の謎を解く研究をしていても、心はべつの所に飛んでしまう。







「ケインこそ、どうした?まだずいぶん早い時間だけど。」
「噂話を聞きました」

ケインは、どこかいたずらっぽい顔をした。

「噂?」


世俗から遠く離れたこの場所で、彼が運んでくる噂といったら、よからぬものに決まっている。
それなのに、この余裕の表情はなんだろう。


「ロウランドの若君が、竜騎士として、王宮を旅立たれたとか。」
「・・・え?」


ユーシスが。
何故?
彼は、王宮にいて、フィリエルを守っていてくれなくては困る。
それでは、何のために彼女に別れを告げたのか、わからない。


「それから、あかがね色の髪の乙女が、彼の後を追ってカグウェルに向かっているとか」
「・・・なんだって!?」



話が違う。違いすぎる。
あかがね色の髪の乙女、と聞いて彼女を連想しないほど、僕は鈍くない。
それでは、今、彼女を守るものは何もない。

君は、どうしてそう、常識はずれなんだ。
愚かにも、無防備にも、すべての庇護から抜け出してしまうなんて。





ケインは僕の顔を覗き込む。
・・・すべてお見通し、と言うように。

彼女が向かう方向は、僕らが向かっている方向。

南。


「どうしますか?」







僕は、異端だから。
殺人者だから。
君のそばに、ふさわしくないから。

どれだけ望んでも、かなわない。
そんなの、とうの昔にわかっていたこと。







「・・・僕にできることなんて、ないよ」





















彼女がせめて、無事ユーシスのところにたどり着けることを、祈るしかない。


僕はもう、君を見守ることさえ、かなわない存在だから。




 

 


あとがき…?

出奔したルーンサイドのお話を書きたいなあ、と思い立ち。
かなりルーン贔屓ですね、私(笑) 
フィリエルのことが気になって仕方が無いくせに、きっと『もう関わることはできない』とか言い切ったんだろうなあ、とか、別れのあとにはフィリエルと同じくルーンも苦しんだんだろうなあ、とか、そういうことを思いながら書いていた気がします。(これも使いまわしです;;)