(もう、叫んでもとどかない……)
体がちぎれそうな思いで苑上はその光景を仰いだ。
これが約束されていたこと、彼らのさだめの果てにあるものだと思うとたまらなかった。
とどかないとわかっていても、叫ばずにはいられなかった。
「もどってきて。もどってきて、阿高。おいていかないで」
薄紅天女 第六章「修復」より。
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いかにも画力が足りていないことが無念です…(第一声がそれかって言う)
阿高と安殿皇子の最終決戦。空をも裂く、たいへんな迫力であったに違いないのに…
すごく、大好きな場面です。
胸が痛くて痛くて仕方が無い。
初読の時には、絶望に胸が締め付けられて…。
この後、阿高が人として戻ってきてくれるだなんて、とても思えませんでした。
苑上の引き裂かれそうな悲嘆が、とても辛くて…
阿高の人生を奪ってしまう皇の人間として、
その犠牲を必要としながらも、彼に惹かれて仕方が無い葛藤を抱えて
自分には何の力も無くて、
阿高の力になることも、最後に迎え入れることも出来なくて。
ただ、見送ることだけしか出来なかった悲嘆は、どれだけ大きかったことでしょう。
そして、この言葉が彼を呼び戻したことを知ったときには、どれだけ嬉しかったことでしょう。
魅力溢れる勾玉ヒロインズの中でも、とりわけ苑上に惹かれてしまうのは、
彼女が自分の無力さに嘆きながらも、人智を超えた力、では無く
自分の意志という力で最後まで闘った女の子だからだと思います。
2008.8.9